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「…ねぇ、お兄さん。いい加減あたしのところに来るのやめてもらえませんか?」
また何日か経った頃、再び現れた青年に小物屋の娘が冷たく言い放った。
「……そうですか。
しかし俺はまだ2回しかこの小物屋に来たことありませんけどねぇ~?」
青年は桃色の香袋を手に持ち、じっくり眺めながら呑気な声で言った。
「…よく言いますよ。あたしのバイト先に変装して来てるじゃないですか。
ここにもお団子屋にも島原にも呉服屋にも甘味屋にも…他にもいろんなところに来ましたよね?」
「…さぁ?どうだったかなぁ~。」
「おじいさんにおばさん、飛脚、薬屋、遊女に忍者…。他にもいろんな格好でしたね。一体あなた何者なんですか?」
彼女は冷たい瞳で彼を見つめる。
青年はそんな彼女を楽しそうに見た。
「そんなのあなたも変装してバイトしてる店あるじゃないですか。
まぁそんなことはどうでもいい。じゃあ先に俺からの質問にちゃんと答えてくれたら教えてあげる。」
そう言うと前と同じように懐から紙を出した。
しかし前とは聞き方が変わっていた。
「これはあなたに間違いありませんね?」
書かれている名前もその字も変わっていない。
すると次の瞬間、彼女の周りの空気が一気に変わった。
「……はい。間違いございません。
それは私(わたくし)の名前です。」
声も変わっている気がする。
青年はそんな彼女にびっくりしながらも微笑んだ。
「…ようやく認めましたね。」
「さぁ、ちゃんと答えましたよ?
あなたのことも教えてください。」
「……もちろん教えてあげる。
けど、場所を移動して話したいから今日バイト終わったあと少し時間貰えるかな?」
「もう上がりなんで少し待っててください。片付けて出てきますので。」
彼女はそう言うと返事を待たずに店の奥へ消えて行った。
「…あっ、すいませ~ん!!!
これくださーい!」
青年は店の主人に声をかけて持っていた香袋を購入した。
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