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宴はお開きとなり一同はバラバラに帰る。
武田もフラフラと一人で夜道を歩く。
銭取橋に差し掛かった辺りで黒装束姿の何者かが武田の前に現れる。
武田はそれを見ると普段と同様に人をバカにしたように鼻で笑う。
「…なんだお前か。沖田さんとか永倉さんが来るかと思っていたが…」
目の前の者は何も言わない。
「……実を言えば沖田さんたちと手合わせ願いたかったのだが…仕方ないな」
武田が溜息をつくとほぼ同時に前にいる者は刀を抜いた。
「…なるほどな、刀でないと偽装工作できんからな」
そう言うと武田も刀を抜いた。
「刀を振るお前を見たことはないが…お手並み拝見といこうか……」
武田は口角を上げて言う。
すると相手はその場で一瞬屈んだと思ったら目で追えぬほどの速さで彼との間を詰めた。
もちろん武田もそれを刀で受け止める。
「…さすが、速さはあるな。しかし刀はあまり馴れていないようだが、普段の武器だと殺られていたな…」
武田は少し楽しんでいた。
目の前の者に暗殺を企てられていたのに。
「…春江、お前の戦い方に興味が沸いた。もっと攻めて来い。忍と謂われる者を直接相手にしたことがない」
相手…、華は再び武田と距離を取った。
武田は楽しそうに様子を伺っている。
すると華は突然小さく飛び跳ね始めた。
意味がわからぬ武田はまたしばらく観察する。
ずっと見ているとその行動の真意が見えた。
跳ぶ高さ、間、着地の場所などが毎回違う。
「…なるほどな、これで相手のタイミングをズレさせるわけか……」
武田はジッと彼女を見つめた。
するとまた彼女は一瞬屈むといつの間にか彼の後ろを盗っていた。
すると彼は刀を棹に戻した。
「…そうだな、お前に一言言っといてやろう。速さがあるから大丈夫だとは思うが、お前は相手との間を詰める時に一瞬体制を低くする癖があるようだ。もしお前より素早い奴を相手にした時、これを見破られると致命傷に成り兼ねん。直すことを勧める」
華は一瞬間を空けて武田の背中を斬り付けた。
彼はバサッと音を立てて前に倒れると動かなくなった。
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