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「…お華、今一瞬躊躇したやろ?」
暗闇の中から声が聞こえた。
しかし華はそれを無視して屯所へと帰った。
屯所の門の前では土方が壁にもたれて煙草を吸っていた。
「只今戻りました」
「…ああ……」
返り血ひとつ浴びていないが彼女に風呂を勧めて土方は自室へと戻った。
自分の愛する者を暗殺者として使った。
手は無意識のうちに震えていた。
そのままいくらか経った。
部屋の外で華が声をかける。
土方が入るよう促すと華は襖を開けたが珍しく男装していない彼女の姿があった。
「………珍しいな…どうしたんだ?」
「お化粧めんどくさくて。ほら、寝る前に落とさないといけないでしょ?……あと、………早く副長様に会いたくて…」
その言葉に土方は目を伏せる。
彼女を部屋へ入れて座らせると彼は頭を下げる。
「…すまねぇ……」
「………ん?何がですか?」
「お前じゃなくてもよかったのに…。…手を汚させてしまった……」
華の白い手を自分の左手に乗せて優しく撫でる。
「え?何言ってるんですか?私の手は汚れる為にあるんですよ?例え私が新選組の為とはいえ人を殺め、それを理由に副長様に嫌われたとしても、それが私の仕事なんです。それは副長様が一番わかっていらっしゃると思いますが…?」
華は自らの手を撫でていた自分より大きい手に自分の逆の手を重ねた。
「…そうだな、お前の言う通りだ。だからこの仕事を春江に任せたんだ。…でも、何があったってお前のことを嫌いになる訳ねぇだろ?…華、来い」
手を引っ張り自分の胸に倒れてきた彼女をすっぽり包み込んだ。
「……副長様…」
華は熱っぽい視線を土方に向ける。
「…歳三」
「………はい…?」
「お前、俺の名前知らねぇのか?」
「…………いや、知ってますけど…」
「じゃあ名前で呼べよ」
「…歳三さん」
「………華…」
どちらともなく唇が合わさる。
そうして二人の甘い夜は更けていった。
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