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「春江くん、副長直々に来はったのに行かんでええの?」
戻ってきた華に女中の一人が尋ねる。
「…終わるまで待って下さるみたいなんでお言葉に甘えさせて頂いたんです。私にとってこちらの仕事も大事ですから」
華が微笑して言うと女中たちは嬉しそうに笑った。
そしてすぐに片付けも終わり、最後まで仕事をしていた女中たちも帰路につく。
「ほな、また明日」
頭を下げる女中に華も笑顔で見送る。
彼女たちの姿が見えなくなるとスッと笑顔を引っ込めて後ろを見た。
「………なんで隠れてるんですか?」
華が壁に問えばその裏から土方が出てくる。
「…なんでそんな機嫌悪りぃんだよ?」
頭をガシガシかきながら土方は少し不安げに彼女を見た。
「別に機嫌悪くないです」
「嘘つくなよ!じゃあなんでそんなにふてぶてしい顔してんだよっ?」
「ふてぶてしい顔は元からです」
彼女はそう言うと彼に背を向け歩き出した。
「……どこ行くんだよ…」
「自分の部屋です」
「俺の部屋に来いっつっただろ?」
「今はそういう気分じゃないんで」
自分の声があまりにも冷た過ぎて華は少し驚いたが彼女の腕を掴もうとする土方を避けると黙って自分の部屋に戻った。
********************
「…………てな訳です」
華は複雑そうな表情の斎藤に話し終えると満足そうな表情をしていた。
翌日の朝餉、土方と華のピリピリがハンパなく、他の者たちは気になって気になって仕方なく、じゃんけんに負けた斎藤は代表として華から話を聞くことになり今に至る。
「……お前は副長が嫌いなのか?」
「………嫌いではないと思いますよ?ただ副長様って偉そうなんですよね。私はあんたの何なんだ?って感じですよ」
「……………まあ副長だからな、偉いことに間違いはない…。ただ確かに副長の言動は少し問題があるな…」
腕を組み真剣に答える斎藤の言葉に ですよね?ですよね? と嬉しそうに華は笑った。
「俺の部屋に来いって、仕事以外で来て欲しいならそれなりの言い方ってものがあると思うんですよね!」
「……………お前もなかなか偉そうだけれどな………」
斎藤は深い溜息をついた。
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