「遠すぎる」

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「遠すぎる」 ときみが言って、ぼくはおもわず「え」と階段を見上げる。 きみが階段を見上げたから。 ぼくは、きみのそのしぐさにおののく。 夜の学校。 高い踊り場の窓には、残照がまだきらめいている。 誰かに見つかったのかと思った。 でもきみは、そんなぼくにかまわずドンドン先へと行ってしまう。 きっと、ぼくのことがきみには見えていない。 そう思った。 ほんとうは、今さっきまでは‥まだいくらか望みの残る明るさに、きみのことを誤解していいのかと思った。 ぼくらは学校に呪いをかけに来たのだった。 トレイに、きみがもってきた袋のなかみをあける。 腐臭。 得たいの知れない、臓物や肉の赤紫いろ、白濁色。腐った血。 そんなトレイの上に描かれた細胞の残滓にならって、きみのゆびが『L』の字のような軌跡を曳く。 毒がそこから漏れてゆく。 呪い。 細胞の呪い。 そのねばつく毒。 寒い。 暑い。 暗い。 まぶしい、毒。 ‥もとはといえば、ぼくが憎しみを吐いたのだった。 それへ、 「呪いをかけよう」 と言ってくれたのはきみだった。 呪いの人型はすぐそこにある。
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