「遠すぎる」

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ああ、それもきみが用意してきたのだった。 儀式は始まり、とうとつに終わった。 めくらましのような炎がひるがえり、すぐに凪いだ。 そして、扉が閉じた。 ぼくは慌てた! きみが走る音。 きみのたてる声。 階段室に囲まれた板敷きの床と、学校のリノリウムの床。 学校の張り詰め格子の床。 一斗缶をぶちまけたように、飛沫の散った、ぼく。 「呪う!」とどこか遠くできみのさけぶこえ。 ‥呪う? 廊下を走るぼく。 階段を上る。 きみをさがす。 階段を下る。 きみをよぶ。 明るい。 暗い。 暑い。 寒い。 時間の緩慢。 描いた細胞の残滓が、並べて描いた『L』のような軌跡が、腐敗する。 びくびくと何かのかげが動く。 ‥これはきみとぼくの夢なのだと思った。 すべて、早回しの。 早回しの夢の飛び散る、飛び散る飛沫の赤。 残照の紅。 いや、こんなに明るいはずない、こんなに赤いはずない‥遠い夜の階段を上る。 遠い夜の階段を下る。 ああ、ぼくはまるで燃えているみたいにあつい。 きみはどこ。 この廊下は、この階段はいつまでつづくの。 遠い。 了
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