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「はいはい。じゃあ、またね澪」
目元に皺を作りながらニッコリと柔和に笑う。
澪は軽く頷くと、俺の手を引いて店を出た。
「・・・朔は、訊いて欲しくない?」
「何を?」
「君の、今までの生活のこと」
「・・・どうしてそう思う?」
「何となく」
きっぱりと断定的にそう言った。
そんな澪の様子に俺は苦笑しながら、先を促した。
澪は怪訝そうに顔を顰めながらも、手を引きながら歩いてくれる。
「・・・澪、俺には別に何も無いんだよ。
澪が気にするようなことなんて、何にも、ないんだよ」
「・・・そうか」
「そうそう。・・・そんなことより、早く食器と鍋と・・・あとはちゃんとした包丁、買って帰ろう?」
「・・・・あぁ」
澪は何とも言えないような、そんな空気を漂わせながら・・・
俺の手を引いて、歩いた。
そう、別に話しても問題のない、なんてことのない俺の話。
話しても問題ないなら話せばいい。
でも、それでも言わなかったのはどうしてだったのだろう・・・?
澪にこんな顔をさせてまで、話したくないようなことでもない。
どうして・・・?
自分の胸に問いかけてみた。
・・・・たぶん、俺も澪の事を知らないから。
家を出る前、俺は訊いた。
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