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辺りは闇に包まれ
草木の生い茂った森の中で
虫や鳥などの声しか聞こえないはずの場所で……
「ぐっ……!」
そんな中、うつ伏せで苦痛を浮かべた顔だけを起こした男の振り絞った声が響いた。
満身創痍の男の前に立っているのは十代後半程の青年。
月さえ光を注がないこの森の闇に馴染んでしまいそうなほど漆黒の髪と眼を持ち、端正で整った顔は一瞬息を止めてしまいそうなほど精悍な顔立ち。
だがその顔には生きているのかどうか分からなくなる程感情と言うものが感じらない。
黒いスーツを纏った彼は立ったまま冷たく静かな瞳を男に向けていた。
男を見据え
漆黒の黒髪を風に遊ばせたまま
彼はしばらく静止していた。が、不意に彼の左手が動作を行う素振りを見せる。
力のこもっていにい左手が少し動く。
どちらにしろこれだけ距離が離れているのならば彼に攻撃は無理であるはずなのだが、男の方は何故か恐怖に歪んだ表情で青年の動向を見つめている。
しかし少年は辺りに視線を巡らせると、踵を返し森の外に向かっていった。
「助かった……のか?」
うつ伏せのまま男が呆然と口を開く。
「助かった…って言えば助かったかな? 元々は彼、おじさんを動けなくするために来てただけだし。」
数メートル後ろから聞こえた丁寧に紡がれた声に男が慌てて振り返る。
「彼は任務が終了したから上に『報告しに行った』だけ。後は……。」
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