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ある日、はやめに帰りついた良人は体から潮のかおりをさせていた。 ‥海辺の街への出張だったろうか? 玄関で佇む孝之は、おかえりなさいと声をかける佐紀子を視てひどくふしぎそうな顔をした。 佐紀子の気のせいだったかも知れない。 ほかに変わったところが取り立ててあったかというと‥多少、こう、何かしら周りをしげしげと見回すような‥おもしろがってでもいるかのようなそぶりをみせたという、それぐらいのコトだろうか。 佐紀子はとくに気にもしなかった。 男はときどき、自分がおかれている境遇を確かめるようなしぐさをする。 ビールを飲んだ後で孝之は家の隅々を視てまわり、何かをさがしているようだった。 かなり遅くまでごそごそしていてうっとおしかった。 佐紀子の横たわるベッドに孝之が戻ってきたのは真夜中ごろだ。 起こされて孝之の顔を視ると、ひどく疲れているみたいだった。 その夜、久しぶりに求められ、ふたりは睦みあった。 翌日、孝之は会社を休んだ。 いつもと同じように起きたが、子供たちの奇異の視線を浴びながら、普段にない奇妙な情熱を込めて丹念に朝食をたいらげ、そのまましばらくは家の中にくすぶっていた。 そのうち、佐紀子が掃除をしている間に、普段着のまま何処かへ出かけてしまったようだ。 姑がおくからでてきて、佐紀子に訊いた。 「ねえ。孝之、妙な感じじゃなかった?」
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