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ピッチャーは意を決したようにゆっくりと投球動作に入った。
そのとき、優太はスーツ姿の父親が汗まみれになりながら階段を駆け上がってくるのを見つけた。
カキーン!
バットが軽快な音を鳴らした。優太ははっとなってボールを見上げた。
ボールは、雲一つない青空に吸い込まれそうなぐらい高々と舞い上がって、優太の方に向かってきていた。
「センターバック!」
チームメイトたちが大声で呼びかけるよりも速く優太は駆け出していた。
「がんばれ優太!」
ボールに飛び込む瞬間、優太は父親の声を聞いたような気がした。
優太は起き上がるよりも速く、ボールが収まったグローブを高々と掲げた。
一瞬の間があってから、近くまで詰めてきていた外野のチームメイトが優太に駆け寄った。
「ゲームセット!」
と審判の声が高らかに告げた。
整列をするために、優太はチームメイトと一緒に前に向かって駆け出した。
もう一度階段のほうを振り向くと、父親はネクタイを緩めながら優太に向かって手を振っていた。
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