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「あなた…だれ?」
娘が少年に質問する。
室内には妻と娘の二人きりだった。
「僕は、あなたのお父さん…、啓治さんの知り合いのものです。
啓治さん…急な仕事が入ってしまって、来られないそうです。」
妻が、泣きそうな顔になったのがわかる。
「そっか。連絡がとれないのは、そのせいなのね。」
どうやら娘には私のことは話されていないようだ。
「残念。せっかくドナーの人が見つかったってゆーのにー。」
「そうなんですか。」
ドナー…?見つかったのか?
「うん。なんかね、この病室の前で事故が起きたみたいで。」
………えっ?
「その人の心臓をもらうんだって。よかったよ。早くお父さんにしらせたいなぁ。」
それは…私のことか……。
妻は、必死に泣きそうなのを堪えている。
娘の前だからか…。
そうか………。
よかった。
本当に…。
目頭があつい。
私はもう自分を抑えきれなくなった。
もうまともに立ってもいられない。
これだけ嗚咽をもらしても、二人には気づいてもらえない。
二人には私は見えない。
こんなにも………そばに…そばにいるのに……。
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