少年

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「このビルかい?」 目の前には、観音開きのビルがそびえ立つ。 「ええ、そうです。」 「以外と普通なビルだな…。」 「目立つわけには…いかないので…。」 「そうか…。」 少年から案内されたビルは、死者の手続きが行われる場所らしい。 病院に近い場所にあった。 理由は、病院からの死者に便利だから…。 「ここに入ったら…もう出られないのか?」 「はい…。そうなります。」 「その後はどうなる…? 天国とか、地獄に行くとか?」 「それは、言えません。」 「そうか。それにも慣れたな。」 「…ただ。」 「ただ?」 「ただ、あなたは、地獄へ行くことなんてありませんよ。 あなたは優しい人ですから。 大丈夫です。」 と言って少年は笑う。 多分、これは少年なりの冗談なのだろう。 「…私は。」 「はい?」 「私は、あの子の父親で幸せだったよ。 あの子からは、たくさんきれいなものをもらった。 だが、私があげられたものはとても少ない。 だから、あの子に心臓をあげることができて、私は満足した。 もう…思い残すものはない……。」 「そうですか…。 最後に…。 最後にシニカミには、死者の願いを一つだけ、聞いてあげることができます。 私にできることなら、なんでもいたします。 ただし…その願いの使い道は他者のためにしかつかうことができません。 でも、残された人のために、何かをすることができます。」 少年は真面目な顔になり、そう言った。 「僕は…何をしましょうか…?」
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