少年

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「…じゃあ、さっき君が買った花束を、娘にあげてくれないか?」 「え…? なんでもいいんですよ? お金でも地位でも…。 いいんですか?」 「保険には入っていたからね。 金は大丈夫だよ。」 「でも、限度は無いんですよ。」 「金なんかあげたら、それに頼って、ダメになってしまう。 だからあの花束を娘に。 君が選んでくれたものだしね。」 「…はい。」 「それに、なんでも、なんて嘘だろ。」 「………はい。 どうしてわかったんですか?」 「すぐわかるよ。 なんでも願いを叶えてくれる、なんて子供っぽいからさ。」 「そうですか。 そうです。嘘ですよ。 いままでの人たちにもこれは言ってきたんです。 でも、頼みごとをきいてあげるかどうかは、気分しだいでした。」 「どうしてこんなことを?」 「人が最後に望む願いを、知りたかったんです。 その願いには、その人の人生が現れますから。」 「そうか。」 「でも、了解しました。 あなたの願いは、叶えてあげますよ。 あなたは、優しい人ですから。 娘さんが羨ましいです。」 「優しいと言ったら、君だって十分やさしいよ。 君に会えてよかった…。」 「いえ、そんな…。 僕もあなたに会えてよかったです…。」 「ああ…。 君の名前、まだ教えてもらってないね。 名前は?」 「リュウ、といいます。」 「そうか…。」 私はビルを見つめる。 「じゃあ、そろそろ行くよ。 元気でね。 ありがとう、リュウ。」 「…はい。 いってらっしゃいませ…。」 と言って、少年は深く頭を下げた。 「ああ。 行ってきます。」 両手に力を込めて、重いビルの扉を開ける。 この扉だけは、動かすことができるそうだ。 長かった。 でも、悪くない一生だった。 ありがとう…はるか。
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