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この少年は誰だ。
いや、知っているはずだ。最近よく見かけた気がする。だが名前が出てこない。
おかしい。こんなことが…。
「大丈夫ですか?汗、すごいですよ?」
「あ?ああ。いや、大丈夫大丈夫。ゴメンね。」
「いえいえ。」
私は、驚きを隠せなかったようだ。少年を心配させてしまった。
とりあえず、この子に飲み物を頼まねば、と思って机をみる。なにもない。
水とおしぼりは基本だろ。
店員をよぼう。
「すみません。すみませ~ん。」
誰も振り向いてはくれない。
まぁ、しかたないか。このくらい、人が混んでいるとな…。
水もだせないわけだ。さすがは人気カフェ。
世の中不景気とは思えない。
しかたない。
「店員を呼んでくるから、待っててくれるかな。」
「え?僕が行きますよ。座っててください。僕立ってるんだし。」
「…ならお願いしよう。」
少年は、混雑した店内へ糸のようにスルスルと消えていった。不思議な少年だ。
この混み具合を見ると、去年の冬、妻と行った商店街の大売り出しを思い出す。
あれはひどかった。
思いだしたくもない。
私はすぐへばってしまって、そのあとはずっと荷物の番をしていた。
帰ってきた妻は、いい笑顔をしていたなぁ…。
とても懐かしい。
去年のことであるのに…。
そういえば妻は、この店に来たがっていたな。
それなのに…どうして私は一人で…。
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