少年

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…質問を変えよう。 「これから、どうするつもりだったかな。 いや、わかってるよ。わかってるんだ。だけど…」 「大丈夫です。すぐ思い出せますよ。 少し、散歩でもしませんか? 時間が経てば、時間が思い出させてくれますよ。」 と、少年は半ば強引に私を散歩に誘った。 この少年は、私がいろいろなことを忘れている理由を知っているようだ。 どうして… 「お待たせしました。」 「あ、どうも。」 少年が注文したのはオレンジジュースだった。 少年はやはり見た目より子供っぽい。 「ん?あれ?」 私のぶんはないのか…。 何を頼むかは確かに言わなかったが、さすがに…。 いや、まぁいいか。 今はのどがかわいているわけではないし、飲みたいわけでもないから…、という考えにいきついた。 「では、行きましょうか。」 「ああ。ジュースは飲まないのかい?」 「いえ、あなたが思い出していただければ、僕はそれでいいんです。」 といってレシートを取った。 私が払おうか、と思ったが財布がない。 忘れたのか。それとも…。 結局、質問には答えてもらえなかった。 「では、少し待っててください。」 「ああ。本当にゴメンね。なにもかも。」 「いえ、慣れてますから…。」 そう言って少年は笑った。 それは初めてみる、少年の見た目に合わない、大人のような微笑だった。
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