少年

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それから私と少年は、同じ道を何度もぐるぐると回っていた。 この道はよく通った。 娘は、生まれながらにして体が弱かったので、私と妻で娘の車椅子を押しながら、この道を通った。 気づくとまた花屋の前についた。 これで4度目だったか。 「もう…、いいんじゃないか?いつまでたっても、思い出せないよ。」 「諦めないでください。大丈夫ですから。」 この少年の口癖は、「大丈夫です」のようだ。 私は、さすがに少年に苛立ちを感じた。 年下だと思い、年上として我慢はしていたが、限界だ。 「いつまでこんなことを続けるんだ?人を呼び出しておいて。」 「呼び出してなんかいませんよ。仕事です。」 「仕事…?それは…やはり言えないのか?」 「…はい…。」 「いい加減にしてくれ。 もう帰るぞ。」 そう言うと、少年は困った顔をした。 その顔が娘の困る顔によく似ていたので、萎えてしまった。 私が娘を叱ると、娘は決まってその顔をしたのだ。 「まぁ、いいか。 どうせ暇なんだし。」 少年はまた落ち着いた顔にもどった。 「花屋がありますね。どうです?花でも…」 花か…。 娘が好きだったな。 病室によく持っていったものだ。 「いいなぁ。頼むよ…。娘にあげたいんだ。」 「娘さん…ですか。どんな花にします?」 私は少年にまかせることにした。 この少年ならきっといい花を選んでくれるだろう。 少年は花屋の中へ入っていった。 花…。 なんだろう。 懐かしい…。 何かを思い出しそうで…。 なんだこれは…。 「どうか…しましたか?」 「え?」 気づけば少年は私の前に立っていた。 音も無く…。 やはり不思議な少年だ…。 「それでは行きましょう。」 「…ああ。」 少年が持っていたのは、色とりどりの花束…。 やはりきれいだ。
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