少年

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ここは病院内。 少年は、私の後から静かについてきた。 おそらく、私に気をつかったのだろう。 自動ドアは、私が立っても反応しない。 少年が、その場所へ立つことで開いた。 「あなたはまだ、死んですぐですので、ものに触ることはできても、ものを動かすことはできないんです。」 それでようやく、この少年がカフェでしたことに合点がいった。 私は、周りの人達からいないことになっていたのだ。 だから、私の声に誰も反応をしてはくれなかったのだ。 娘の部屋の前に着く。 「着いたよ。」 「ここは?あなたの…。」 「娘の病室だよ。」 「でも…あなたの部屋は…。」 「いいよ、それは。 確認する必要なんかない。 私はもう死んだんだ。 自分の死体なんか見たって、嫌になるだけさ。」 「…でも……でも……。」 少年は納得いかない態度をとる。 「私は自分の命よりも大切なものがある。 最後に一目見たかったんだ。家族の姿を…。」 少年は俯く。 「ドアを頼む…。」 少年は顔を上げ… 「あっ!!しまった。」 「どうした?」 「花束…、ベンチに忘れてきてしまいました。」 「……いいよいいよ。 気づかなかったのは、私も同じだよ。 しかたない…。」 「すいません…。」 「いいって…。」 「……では…。」 少年は大きく息を吸い込んだ。 そして、呼吸を整え、ノックをして、引き戸を引く。 「…失礼します。」
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