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ァタシが彼に出会ったのは、煌々と日差しの照り付ける暑い8月だった。
具体的に何か嫌な事があったわけじゃない。
ただ今の生活環境にとても疲れ、23歳の若さで将来に夢も希望も感じなかった。
だから新しい生活環境を求め、新居を探している…そんな矢先だった。
内見に向かう不動産屋の車の中からふと見た何処にでもある公園の噴水に、ズボンの裾をたくしあげ、両足を浸す1人の男の姿。
『何してんだろ…』
ァタシよりも年上に見えた男が、こんな昼間に仕事もしないで噴水に足をつける姿を少し疎ましくも思えた。
暑さのせいかも知れなかった。
内見した物件はごく普通のワンルーム。
特に洒落た設備があるわけでも無かったが、陽当たりも良く、少し広めのベランダがあった。
窓を開け、「どうぞ。」と笑顔でベランダへ誘う不動産屋。
ァタシは素足で熱くなったコンクリートの床を踏み締めた。
ベランダから望む景色は遮るビルも無く、細やかながらァタシを癒してくれた。
よく見れば、さっきの男が居た公園。
何故だかちょっとだけ…いや、ほんの2~3秒彼の事を考えていた。
「此処にします。」
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