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拓馬は今日も一人で登校していた。
クラスに仲の良い者はいない……というより、むしろ敵だらけと言う方が近い。
高校生活で敵というのもおかしなものだが、実際にそうなのだから仕方がない。
かといって通っている学校が不良の巣窟というわけでもなく、普通の公立高校である。
拓馬は過去に空手を習っていたことがあり、その実力はかなりのものであったのだが、その空手を止めて久しい。
原因は父の死だった。
大好きな父親が突然の事故で死んだのは、三年前……拓馬が中学一年生のときである。
最初は父がかけていた生命保険のお金で、母と二人で仲良く暮らしていたのだが、
一昨年から母親が新しい男を作り生活は一変した。
まともに働きもしない男に母が貢ぐ形となり、湯水のように金を使う。
拓馬がそれに気がついた時には、ほとんど貯金は底をついていた。
父が死んで一年もしないうちに男を作った母にも腹が立ったが、
その母をたらし込んで金を貢がせる男には、心の底から腹が立ち、
拓馬は母を問い詰めて、男のもとへと向かい、母の目の前で男を半殺しにした。
そのときに、倒れた男を庇うように覆いかぶさりながら、母は泣きながら拓馬に殴るのを止めて欲しいと懇願してきた。
なぜ自分たちの生活を壊した男を庇うのか、このときの拓馬にはまったく理解できなかった。
そして男の住むアパートの隣人の通報により、拓馬は警察に逮捕されたのだが、
警察による事情聴取の後の身元引き受けに母は来てくれなかった。
すぐ近くに身内もなかった拓馬のために、警察は学校の教師にも頼んでくれたらしかったけれど、誰も来てくれなかったのである。
まだ中学生だった拓馬が、笑わなくなったのはこの日からだった。
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