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そんなある日、一人の少女が拓馬の住む施設にやってきた。
名前は陽菜(ハルナ)。学年は拓馬と同じ高校一年生だけれど、学校には行っていない。
というか、正確には行かせてもらえなかったらしい。
彼女は幼い頃からずっと、母親と二人暮らしだったのだが、
拓馬と似たような境遇で、頻繁に母親が新しい男を作っては、
その男たちと共に、陽菜に虐待行為を行っていた。
今までもずっと児童相談所が母親のもとを訪れていたのだが、最近になってこの母親が同居の男との間で事件を起こし、
それを機に陽菜は施設に引き取られることとなったのである。
施設の職員の山形が拓馬の部屋に陽菜を連れて来た。
山形は誰にも心を開かない拓馬に、いつも笑顔で接し続けてくれるまだ若い女性職員である。
「拓馬くんちょっといい?」
「はい」
拓馬は山形にだけは話しかけられても返事をする。
「今日から一緒に生活する安藤陽菜ちゃん」
そう言って陽菜を拓馬に紹介した。
「で?」
拓馬は陽菜をチラっと見ただけで、また視線を机の参考書に移した。
「陽菜ちゃんには拓馬くんと同じ学校の転入試験を受けてもらおうと思ってるの」
「え?」
「でね。港北高校に通ってるの拓馬くんだけだから、陽菜ちゃんのこと色々お願いしようと思って」
「冗談でしょ……」
拓馬は面倒くさそうに言った。
「そんなこと言わないで。この子はね、拓馬くんと似てるの」
「え?」
聞き返した拓馬に、山形は今までの陽菜の経緯を掻い摘んで教えてくれた。
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