命懸けの伝言

20/30
前へ
/105ページ
次へ
「お前、自分の立場がわかってるか? お前は」「あーあ。よーくわかってるよ」 言葉を遮られた。 なんかわからないけど、こいつ、急に怯えなくなった。 追い詰めてるのは俺の筈なのに、全然そんな気がしない。 「わかってないのはアンタの方だよ」 ニヤニヤ顔で言ってくる中原。 確か服屋でも、メイドに似たような事を言われた。 状況が全く違うけど。 「今のは、“アタシの”質問タイムだったんだ。人間は追い詰められると反って意固地になって、警戒する。でも有利な立場にいると油断する。それに今みたいに相手の目的自体を知りたい時は、相手の質問がヒントになる」 「それで?」 短い質問で余裕をアピールする。 しかし言葉とは裏腹に、俺の背中には冷や汗が流れていた。 まずい流れだ。 俺はどこでミスった? 何を見落としている? 仲間がいるのか? いや、その可能性なら、こいつを取り押さえる前から考えてる。 周囲に俺達以外の人間の気配はない。 「つまり。アタシは少しも追い詰められてない。アンタも全然有利じゃな」言葉が終わるより先に、俺は握っていたナイフを中原に振り下ろ……! しかけて途中で止める。 ナイフを握る右腕から血が流れ、鋭い痛みが走っていた。 「惜しいっ! やっぱアンタのその能力邪魔だよ。普通なら腕の肉が細切れになってるのに」 中原が動いた様子はない。 なのに俺はダメージを受けている。 その謎はすぐに解けた。 空中に線を引くように、俺の血が付いている。 これは……、 「……糸」 さっきは何もなかった場所に、ピンと張り詰めた糸が張られている。 と言っても、見えるのは血が付いた部分だけ。 余程細いのか、太陽の光が届かないこの場所では、その糸は全く見えない。 この能力、見た物を認識するのが精確になるだけで、視力そのものが良くなる訳じゃないのか。 「いつの間にこんな物を……」 「アンタらが来る前に決まってるだろ」 ……有り得ないだろ。そんな事。 俺が駅に行くって決めたのは、ついさっきなんだから。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加