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「お前、自分の立場がわかってるか? お前は」「あーあ。よーくわかってるよ」
言葉を遮られた。
なんかわからないけど、こいつ、急に怯えなくなった。
追い詰めてるのは俺の筈なのに、全然そんな気がしない。
「わかってないのはアンタの方だよ」
ニヤニヤ顔で言ってくる中原。
確か服屋でも、メイドに似たような事を言われた。
状況が全く違うけど。
「今のは、“アタシの”質問タイムだったんだ。人間は追い詰められると反って意固地になって、警戒する。でも有利な立場にいると油断する。それに今みたいに相手の目的自体を知りたい時は、相手の質問がヒントになる」
「それで?」
短い質問で余裕をアピールする。
しかし言葉とは裏腹に、俺の背中には冷や汗が流れていた。
まずい流れだ。
俺はどこでミスった?
何を見落としている?
仲間がいるのか?
いや、その可能性なら、こいつを取り押さえる前から考えてる。
周囲に俺達以外の人間の気配はない。
「つまり。アタシは少しも追い詰められてない。アンタも全然有利じゃな」言葉が終わるより先に、俺は握っていたナイフを中原に振り下ろ……! しかけて途中で止める。
ナイフを握る右腕から血が流れ、鋭い痛みが走っていた。
「惜しいっ! やっぱアンタのその能力邪魔だよ。普通なら腕の肉が細切れになってるのに」
中原が動いた様子はない。
なのに俺はダメージを受けている。
その謎はすぐに解けた。
空中に線を引くように、俺の血が付いている。
これは……、
「……糸」
さっきは何もなかった場所に、ピンと張り詰めた糸が張られている。
と言っても、見えるのは血が付いた部分だけ。
余程細いのか、太陽の光が届かないこの場所では、その糸は全く見えない。
この能力、見た物を認識するのが精確になるだけで、視力そのものが良くなる訳じゃないのか。
「いつの間にこんな物を……」
「アンタらが来る前に決まってるだろ」
……有り得ないだろ。そんな事。
俺が駅に行くって決めたのは、ついさっきなんだから。
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