命懸けの伝言

22/30
前へ
/105ページ
次へ
「嘘じゃない」 「――ってことは裏切った理由は聞いても無駄…………」 しばらく地面を見て考え込む中原。 出来れば、そうやって悩み続けて欲しい。 時間を稼いで助かる見込みは全くないが、それでも諦めたくない。 もしかしたら、俺の知らない俺の仲間が、助けに来てくれるかも。 しかしそう時間が経たない内に、中原が顔を上げて俺を睨んだ。 「最後の質問だ」 くそ、2つ目でもう最“期”かよ。 「なんで一樹(かずき)さんを殺した?」 …………『一樹』……? 「誰だ? 一樹って」 聞き返すと中原は、顔中に怒りを顕にした。 「アンタがさっきオールバックって呼んでた人だ!」 ああ、あいつか。 …………。 ――って、いや待て待て待て! 「俺はあいつを殺してない! あいつが勝手に死んでたんだ」 「嘘をつくな!」 「ヅっ!」 見えない糸で、今度は右足が切られた。 こいつ……! ふざけんな……! じゃあ、なんて答えりゃ満足なんだよ! 「嘘じゃないって……!」 「なら一樹さんが自殺したって言いたいのか!? ふざけるな! あの人がそんなことするか!」 知らねえよ。くそっ。 「あの人のことはアタシが一番よく知ってる。一樹さんが自分から意味もなく死ぬはずがない」 「自殺じゃないんだったら、俺達以外の誰かが殺したんだ。とにかく俺と桐沢は殺してない」 中原の眼光が、一層鋭くなる。 「しらばっくれるつもりかよ。アタシはなぁ、アンタが来る前に部屋に入ろうとしてたんだよ。でも入れなかった。アンタが来てガラスを割ったから入れたんだ!」 「…………」 あの時、こいつも居たのか……。 全然気付かなかった。 「あの部屋は密室だった。殺せるのは! 真っ先に部屋に入ったアンタらだけだ!」 こいつはどうしても自殺じゃないと言いたいらしい。 あの状況を見てたんなら、どう考えても自殺だろう。 だけど今は、こいつがルールだ。 こいつに、俺が犯人じゃないとわからせる。 それか、俺以外が犯人だと思わせない限り、俺達は助からない。 中原は何を思ったのか、俺から目を離して土手の方へと歩き出した。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加