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中原が向かう先には、桐沢がいる。
まさか…………。
中原が桐沢の襟首を持って、俺の目の前まで引きずってきた。
くそっ!
俺がお前を引きずった時だって、もうちょっと丁寧だったっつうのに。
「アンタが認めたくないって言うんなら、それでもいい」
桐沢の髪を持って、無理矢理に顔を上げさせる中原。
桐沢は虚ろな目をしている。
「認めたくなるまで、こいつを痛めつけるだけだ」
「やめろっ!」
俺は思わず叫んでいた。
そんな俺に中原は、嘲笑うでもなく、睨みつけるでもなく、ただ冷たい視線を投げかけてくる。
「『やめろ』? 違うだろ。アンタが言わないといけないのは、『私が一樹様を殺しました。どうか罰として、私を殺して下さい』だろ?」
「くっ…………!」
どうする?
とりあえず俺が殺した事にするか?
いや、その瞬間に俺は殺されて、その後桐沢も殺される。
結果は同じだ。
でもこのままじゃ明らかにまずい。
桐沢を助けるって、約束したのに、俺はもう約束を破るのか?
そんなのは駄目だ。
桐沢を守りたい。
でもその為にはどうしたらいい?
俺はどうしたら桐沢を助けられるんだ?
どうしたら…………
「…………だめ」
声がした。掠れるような小さな声だったが、確かに声がした。
その声に中原が驚いて、掴み上げている桐沢を見る。
桐沢の目に、微かに光が戻っている。
「…………だめ。もうわたしのせいで人が死ぬのは…………。わたしはもう、誰も殺さない。……ただ静かに死んでいく……。誰も殺さない」
言葉と共に、桐沢の身体から、パチパチと電気のような火花が発せられる。
目の錯覚とかじゃない。
俺の理解を超える何かが起ころうとしていた。
もしかしたら、助かるかも知れない。
そんな期待に心が踊る。
桐沢が顔を捻り、中原の目を見た。
「ひっ! う、うああぁぁぁ!」
中原が錯乱して、逆手に持ったナイフを振り下ろす。
桐沢は髪の毛を掴まれているせいで避けられない。
いや、桐沢は避けようとはしなかった。
ただ、中原の目を見ていた。
すると突然、桐沢の喉元目掛けて進んでいたナイフが途中で進路を変えた。
その向かう先は、桐沢の頭と、中原の手の間。桐沢の髪を切り裂くだけで、ナイフはどこにも刺さらなかった。
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