命懸けの伝言

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だけど桐沢は、俺を助けようとしてくれてた。 嘘をついてたとか、騙されてたとか、そんな事はどうでもいい。 桐沢が俺を助けようとしてくれたなら、俺はそれに応えたい。 今の俺に、出来る事は何だ。 時間を稼ぐ? そんな他力本願じゃ駄目だ。 俺は俺自身の手で、桐沢を助ける。 出来る事は全部やる。 「何も言わないってことは、アンタは認めたくないってことだよな」 俺に出来る事。 俺の能力。 目が良くなった訳ではないのに目に映る物が鮮明に見えたり、耳が良くなった訳でもないのに全ての音が確実に聞き取れるのは、送られてきた情報を脳が瞬間的且つ正確に処理するから。 繰り出される拳がテレビの特撮のようにスローに見えるのは、脳の情報処理するスピードが早くなった分、時間の流れが遅く感じられるから。 俺の能力は、脳の情報処理速度を早くする事。 その能力を最大限に発揮して、この状況を乗り切る。 世界を、“変える”。 「まずは指……を……1……本……ず……つ……切…………り…………落…………と…………し………………て………………や…………………………る……………………。……………………」 中原の話す言葉が、どんどん遅くなっていく。そう聞こえる でももっとだ。 まだ足りない。 俺は集中する。 中原が、ゆっくりしゃがんで、桐沢の手を持った。 桐沢の手の指を地面に広げ、もう一方の手はナイフを構える。 それだけの動作に掛ける時間が10分ぐらいに感じられた。 更に集中する。 そして、 ナイフを振り上げようとする中原の手が、止まった。 車の音が、消えた。 目に映る物全ての動きが止まる。 俺自身も瞬き一つ出来ない。 その世界の中で、俺の思考だけがいつも通りに働いている。 俺は、永久の時間を手に入れた。  * * * *
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