命懸けの伝言

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無限の時間があるというのは、有利なことには違いない。 この能力で解決出来ることはある。 だけど何でも出来るって訳じゃない。 今、目の前に置かれたいくつかの問題。 それを全て片付ける為には、この無限の時間の中で、精一杯頭を働かせて、ない知恵を振り絞って、俺の出来る最善を尽くさないといけない。 最も大きい問題。 それは密室。 オールバックが死んだあの部屋。 オールバックを殺して、自分が部屋から出た状態で、部屋を密室にする方法が、本当にあるのか? いや、あるかどうかが問題じゃない。 何が何でも探すんだ。 なくても考えるんだ。 それが俺が生き残る、唯一の道なんだから。 俺が入った時の、部屋の状態を思い出す。 正方形の暗い部屋。 その入口の扉を背にして死んでいるオールバック。 俺が割った窓ガラス。 気がつけば俺は、その部屋の中にいた。 「いや、違う。ここはお前の頭の中だ」 声に振り向くと、そこには俺がいる。『ようふくやさん』の姿見で見た、年を取った俺じゃない。 高校生の時の俺だ。 「そんなに驚くことないだろ。頭の中ならなんだって有りだ。記憶の中に入り込むことも、そこにもう1人の自分がいることも」 それもそうか。 人が死んだり、殺されそうになったりすることに比べたら、これぐらい普通だよな。 なんか感覚が麻痺してる気もするけど。 ま、いっか。 「それより、この密室を調べるんだろ。早くしようぜ」 ん? 焦る必要あるのか? ここは無限なんだろ? 「そんなんわかんないだろ。誰かがそう言った訳じゃないし。急ぐに越したことない」 それもそうか。 もう1人の俺から目を離して、部屋の中を見回す。 俺と桐沢が入ってきた窓と、扉のある壁。 それを除くあとの3面の壁は、何もない、のっぺらぼうだ。 俺は壁に近づいて、触ってみた。 ひんやりとした冷たさと、埃っぽいざらざらした感触が伝わってくる。 俺は確か、現実ではここの壁には触ってない。 じゃあ今感じてる、これは何だ。
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