28人が本棚に入れています
本棚に追加
「無理な方法って?」
それを今考えてんだよ。
こっちの壁が駄目なら、この部屋の出入口はこの窓と、ドアだけか……。
「窓は俺が割る前は通れないぞ」
わかってる。
ドアだけしか通れないのに、どうすればオールバックをこの位置で、この姿勢に出来る?
ていうか、本当にこれで合ってたか?
「間違いない。扉にケツがつくぐらいピッタリの位置で、足伸ばして身体は前のめり。体力測定の時の長座体前屈みたいな姿勢だな」
最初ここに入った時にこいつを動かしとけば、何とでも言い訳出来たのにな。
「今更そんなこと言っても遅いって」
いっそのこと、入った時に俺と桐沢で動かして、この姿勢にしたことにしようか?
「……俺たちがそんなことする理由は?」
実は俺は座り神様を信仰していて、死ぬ時は座った状態じゃないと、天国にいけないんだ。
「なんだ。そういうことだったのか。これは酷い誤解をしていた。すまない、許してくれ」
いいってことさ。
ハハハハハ。
「ハハハハハ」
ハハハハはぁ……。
「無駄話してる場合じゃないんだったよな」
わかった。真剣に考えよう。
死んだオールバックを開いた扉にもたれさせて、外から引っ張りながら扉を閉めたらどうだ?
「当たり前のことだけど、扉を締め切るには自分の腕を抜くことになる。オールバックの身体を引っ張ることが出来るのは、腕の太さ分だけ扉が開いてるところまでだ」
それだけの長さでも引っ張らずに扉を閉めれば、オールバックの身体はその長さだけ扉から離れることになる、か。
「そうだな。……扉の下の隙間を使うのはどうだ? 糸を通して、引っ張る」
糸が切れるだろ。
「現実の俺は、身体が切れるような糸に追い詰められてるんだぞ。それぐらい丈夫な糸なら、出来るんじゃないか?」
確かに……。
…………いや、やっぱり無理だ。
「何でだよ」
あの糸は丈夫さで切ってる訳じゃない。
切れる要因は細さと速さだ。
紙で指が切れるのと、同じ理由だな。
「もっと太くすれば……」
隙間を通らない。
「なら帯状にしたらどうだ? 布みたいなのを長くして通せば」
ん……。それならいけるかも。
よし、やってみるか。
最初のコメントを投稿しよう!