命懸けの伝言

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「え、ここで?」 そう、実験だ。 ちょうどここに、帯もあるし。 「いや、ちょうど良すぎだろ」 頭の中だから、ちょうど良くて当たり前だろ。 「まぁ……。そうだけど」 じゃあ、やるか。 扉を開けて……。 ……………………。 …………え? 『……この人の身体に触るんです』 桐……沢……? 『……ごめんなさい。今は理由は聞かないで下さい』 気がつけば、隣に桐沢がいた。 ゆっくり歩いて、オールバックの横に膝をつき、その頬に小さな手を添える。 俺の位置もいつの間にか移動していて、記憶のままの視点になっている。 そう、これはあの時の記憶だ。 『…………うぅ、ひっく』 桐沢が静かに泣き出した。 そうだ。 これがわからないんだ。 桐沢が何で泣き出したのか。 この後、桐沢は廃人同然になる。 オールバックに触れる前は普通に喋っていた。 オールバックの死ではなくて、オールバックの死体に触れたことが引き金なんだ。 「そうだな。桐沢は能力者だし、この時に何かあったのは間違いないな」 でもそれが何なのかわからない。 「わかる必要もないだろ。今の問題が片付いたら、直接聞けばいい」 桐沢は、現れた時と同じようにいつの間にか消えていた。 本当にそうなのか? 何か大事なことを見逃してる気がする。 桐沢があんな風になった原因。 それは桐沢の能力がキーになってる。 桐沢の能力。 身体から火花が出る。 多分、相手に触れることで発動する。 他に何かヒントは……。 「オカマのナイフが外れたやつ。あれも桐沢の能力だろ」 そうだ。あれも不自然だった。 でもそれだけじゃない。 何か大きいヒントを見逃してる気がする。 「考えてても埒が明かないって。とりあえず実験しようぜ」 ……それもそうか。 やりながら考えてもいい訳だし。 桐沢のことを考えながら俺は、帯を死体の腰に巻いて、扉の下の隙間を通した。 「頭の中とは言え、死体で実験はどうかと思うけどな」 死体を押さえながら外に出て、扉を閉める。 扉を閉める前に“俺”の方を見たけど、首を振ったので部屋の中に残した。 扉の下から出てる帯を引っ張る。 引っ張る前に、わかった。 これじゃ無理だ。 と言うより、この殺人は不可能だ。 不可能なことを可能にする方法。 そこから一気に、全てが繋がる。
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