少女の悔恨

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賢吾が、地面に唾を吐いた。 「キザな奴だな。その言葉が本気かどうか知らないけど、乗ってやるよ。――その通りだ! アンタは! アタシたちを! 裏切った!」 「それは違う」 俺の言葉に、はたと動きを止める賢吾。 言葉の意味を理解するのに時間が掛かっているみたいだ。 しばらくして2回瞬きしたかと思うと、今度は腹を抱えて笑い出した。 「あっはっはっは! あはっはっは! き、急に何を言い出すのかと思ったら! あっはっはっは!」 地面を転がりそうな勢いで笑っている賢吾を、俺は動かずに(動けないんだけど)見ている。 突如、その顔を一変させて、キッと俺を睨みつけてきた。 「んな訳ねぇだろ。ボケが」 「なんでそう言い切れる?」 さっきしたのと同じ質問を繰り返した。 俺を睨みつつ、賢吾は答える。 「一樹さんが、アンタが裏切ったって言った」 「一樹が言ったら、全部その通りなのか?」 「そうだ」 断言された。 予想外だった。 こいつは一樹教の信徒か。 けど、態度にはその事は出さない。 「話にならないな。そこまで一樹に依存してるなんて。一樹も相当重荷に感じてただろう」 俺の挑発を受けた賢吾の視線が、少し険しくなった。 よし。 「勿論、それだけじゃないよ」 良い話の流れだ。 「と言うと?」 「いいか? アタシたちが全員で協力して、こいつを捕らえた」 賢吾が、足元の桐沢を指差す。 「アンタが突然、牢屋に入れたこいつと話をしてみたいとか抜かしやがった。その時点でアタシたちはおかしいと思ったよ。でも止める理由がなかったから、行かせてやった」 「確かにそうだったな」 俺は適当に相槌を打つ。 「そんで時間が経っても帰って来ないんで様子を見に行ったら、牢屋の前を見張ってた陸斗(りくと=筋肉男の事だ。みんな覚えてる?)が倒れてた。この話を聞いたら、誰だってアンタが裏切ったと思うだろ!」 賢吾は、最後の所で声を張り上げた。 「…………そう思うのも無理はないが……。まずはだ、賢吾。陸斗は俺にやられたのか?」 賢吾がゆっくりと首を振る。 「いや。後ろから突然襲われたって言ってた」 「だろ? 俺に襲われたなんて言う筈がない。襲ったのは、俺たちが捕まえた女なんだからな」
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