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「何が言いたい? 直接手を下してないから、冤罪だとでも?」
「いや、そんな下らないことは言わないよ」
下してないだけに。とは言わない。
「もう一つ。陸斗は俺が女を逃がしたところを見たのか?」
「いや。陸斗が見張ってたのは扉の前だし、そこから中は見えないからな。ってかほんと、何が言いたいんだ、アンタは」
イライラした声を出す賢吾。
「つまりだな、俺は女を逃がしてない。牢屋に入ったら、もう女は勝手に縛りから逃れてた」
「は?」
賢吾が口を開け、ポカンとした顔をする。
「何か? アンタは鎖で縛ってた女が、自力でその鎖を引きちぎったって言うのか?」
「そうだ」
少しずつ賢吾がブルブルと震え出した。
また笑うのか? と思ったら、今度は怒りに震えているらしい。
「――な訳あるか! あの鎖を力でどうにかする人間が、いる訳ねぇ!!」
怒りのままに叫んだ賢吾に、俺は言った。
「お前が言ったんだよ。『化け物』ってな」
賢吾が言葉を詰まらせる。
「俺たちはあいつを甘く見てたんだ。あいつは俺たちの想像を遥かに超える、『化け物』だった」
「“あいつ”……?」
賢吾が怪訝な面持ちで、ちらっと桐沢を見た。
「アンタは誰の話をしてるんだ? この女の話じゃないのか?」
「ああ、その事を言うのを忘れてたな。お前、あの女の顔とか、はっきり見てないだろ? 桐沢はあの女じゃない。別人だ」
「なっ! で、でもさっき……!」
「これもお前が言ったんだよな。『ビルとビルの間を飛び跳ねる』って」
「あ、ああ」
「桐沢のさっきの身のこなしを見て、そんな事が出来ると思うか?」
桐沢のさっきの身のこなし――そこら辺の女の子と変わらない、賢吾にろくに触れる事すら出来なかったさっきの動きだ。
「だ、だけど! あの火花は明らかに普通じゃなかった!」
「当たり前だよ。桐沢も能力者なんだから」
「は?」
賢吾のポカン顔、再び。
俺は言葉を続ける。
「俺は桐沢を、俺たちの仲間にするつもりだったんだ。でもその前にあの事件が起こった。お前たちに誤解された俺は逃げ出して、何とか桐沢の所まで辿り着いたけど、そこで気を失った」
賢吾はまだポカンとしている。
しばらくしてハッと気付き、俺の話に噛み付いてくる。
「だとしたら! アンタが記憶喪失なのに、こいつがその事について何も助言しないなんて、おかしいだろ!」
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