少女の悔恨

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「桐沢には俺たちの事はほとんど話してなかったし、桐沢の方にも色々事情があるからな」 「事情?」 「俺からはその事は話せない」 「…………」 賢吾はそれ以上追求はせずに、視線を落として地面を見た。 かなり俺の事を信じてもらえたように見える。 「さあ。俺が裏切ったんじゃないって事はわかったろ? この糸解いてくれよ」 「い、いや。まだだ」 下げていた視線が俺の顔に戻る。 「本題がまだだ。いくら記憶喪失だったとは言え、一樹さんを殺した償いはしてもらう!」 そう言って右手を構える賢吾。 見えないけど、多分細い糸が握られてるんだろう。 それはつまり、俺の命を握ってるのと同義だ。 「待てよ。最初に言っただろ。俺は殺してない」 「はぐらかしただけだ! まともに答えてない!」 叫ぶ賢吾に、俺はやれやれと首を振った。 「じゃあ教えてやるよ。扉の外から賢吾を扉に引き付ける方法を。簡単だ。その糸を使うんだよ」 「糸……?」 賢吾が手元の糸を見る。 そして顔を上げ、言った。 「まさか腰に糸を巻き付けて、扉の下から引っ張ったって言いたいのか? そんなことしたって……」 「いや違う。それだと引っ張った時、糸が脇のところまで滑るだろ」 「そ、そうだ」 不安そうに答える賢吾に、俺は敢えて明るい声で言った。 「糸を腰に引っ掛けたってのは合ってる。でも滑らない。何故か。身体の中を通したからだよ」 「――――ッッ!!?」 賢吾が絶句した。 俺は構わず続ける。 「一樹の奴、血まみれだったよな。もし腹にもう2つ穴が空いてても、気付かないだろ? その穴に糸を通して、骨に糸を引っ掛けたんだ」 賢吾の足が少し震えている。 「犯人の一連の行動を説明するとこうだ。まずあの部屋に一樹を連れ込む。次に心臓を刺して殺す。その後、別の凶器で腹に2つ穴を空けて、糸を通す。そしたら一樹を扉にもたれさせた状態で自分は外に出て、扉を閉める。それだけだとケツが扉にくっついたあの姿勢にならないから、ケツが扉に当たるまで糸を引っ張る。当たったら糸を片方だけ離して、もう片方を引っ張って糸を回収。あ、あと鍵は勿論、ピッキングで閉めたんだよ」
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