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「誰が……。誰がそんなことを……」
賢吾が唸るような低い声を出す。
「さあ? 誰だろな。予想はついてるけど」「誰だ!?」
即座に血走った視線を向けてくる賢吾。
さっきまでの睨みよりも、迫力がある。
「証拠も何もないけどな。状況から言って、殺したのは俺たちが昨日捕まえた女だろ。あいつは俺たちの敵だし、昨日の復讐だと思えば、動機十分だ」
「――! アイツ……!」
賢吾が顔を歪め、歯軋りする。
「俺はあの女の行く先に心当たりがある。今ならまだ見つけられる。早くこの糸を解け。女を探しに行くぞ」
「言われなくても、もう糸は解いてる!」
言われて、恐る恐る前に足を踏み出してみた。
何ともない。
「……フゥ」
両膝に手を当ててやっと息をついた俺に、賢吾が近付いてきた。
「心当たりがあるってのは、本当だな?」
少しぐらい休ませてくれよ。
せっかちな奴だ。
「ああ。多分駅の方だ。理由は歩きながら話す」
「よし、行くぞ」
駅の方に行こうとした賢吾が、俺に背を向けた。
「――悪いな」
「? 何が……」
その後の言葉は聞けなかった。というよりむしろ、言わせなかった。
俺が賢吾の首筋に手刀を当てて、気絶させたからだ。
地面の上に、賢吾が倒れる。
「いや、やっぱ前言撤回。俺もこんだけ怪我させられたんだから、まだ返したりないくらいだよな」
にしても騙されてくれて良かった。
内心はいつバレるかとヒヤヒヤしてた。
桐沢の所まで歩く。
本当は駆け寄りたいぐらいの心境だったけど、長時間の立ちっぱなしと出血で弱った身体が、それを許さなかった。
今はもう、能力は使ってない。
どうもこの能力、使い過ぎるのは良くないみたいだ。
頭がガンガンする。
さっきまでスローな世界にいたせいで、逆に今が早送りしているように思える。
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