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にしても2人共無事で良かった。これで約束が守れる。
勿論まだまだ問題はある。
桐沢の欝は治ってないし、筋肉男が追ってくるかもしれない。俺の家があるかどうかもまだわからない。
でもあの状況を乗り越えられたんだから、もう何でも乗り越えられるような気がする。
この気持ちは自信というよりも油断に近い気がするけど、これだけ頑張ったんだ。少しぐらい気を緩めても、罰は当たらないだろう。
これからどうするか。
このまま駅に向かうか、それとも一度メイドの店に戻って怪我を何とかしてもらうか。
いや、そんなこと考えるのは後にしよう。
とにかく今は、桐沢のところに行くんだ。
おかしい。
桐沢が遠い。
さっきから全然近付かない。
周りの世界は早送りしているように感じるのに、自分の身体だけ相変わらずスローの世界にいるみたいだ。
焦れば焦る程、足がもつれて上手く進めない。
でももう少しだ。
もう少しで届く。
焦るな。
落ち着いて行け。
もう少し。
「タクマの話術には、いつものことながら驚かされるわ」
…………!
この声……!
まさか……。
「というよりむしろ呆れるって言った方が良い? 別に褒めてる訳じゃないもんね」
恐る恐る振り向いた先にいたのは長身の黒い女だった。
ガールスカウトの来ているような黒い制服に身を包み、腰までストンと落ちる長い癖のない髪が妙に目を引き付ける。
袖口から出る手も、衿元に見える首も、頬も、病的なまでに白い。
どことなく怪しいオーラに包まれた女だった。
「……なにジロジロ見てるのよ。気持ち悪いわね」
言ってこっちを睨みつける。
間違いない。
こいつがオカマの言っていた、『化け物』だ。
俺の記憶の中に出て来た、あの女だ。
なんてタイミングだよ……!
最悪だ。
「ねぇ、何とか言いなさいよ。記憶戻ったんでしょ」
「俺たちをどうする気だ……」
「はあ?」
俺は少しずつ動いて、桐沢と女の間に立った。
今の俺の状態で何が出来るかはわからない。
でも、諦めない。
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