目標

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「ん……」  瞼を薄く開いて、仮想空間から浮上した意識を取り戻す。手足の末端から感覚が戻ってきて、やがて上体を起こしながらゲートシートのハッチを開いた。 「ゆかりぃいいいっ!」  絶対そう来るだろうと思っていたため、正面から抱きついてきた涙と鼻水でぐずぐずの美晴をなんなく受け止める。さっきの衝撃に比べればずっとマシだろう。 「全くもう、死ぬかと思った。愛が重いよ美晴。…………おかえり」 「うわあああん、ごめんよぉおおお」  よしよし、と子どもをあやすように背中をさすりながらも、ゆかりの目尻にも涙が溜まっていた。  根本的な問題は何も変わっていないかもしれない、まだまだお互い知らないこと、知らされていないことも多い。たとえどれだけ近くても、他人を心から理解するなんて不可能なのかもしれない。  けれど、通じ合うことはできた。交わることはできた。仮想空間の中で、魂に触れることで。  邪な心を持たない人間なんて、いない。その逆もまた然り。心には必ず正の面と負の面がある――――その心意のどちらを編むかは個人の選択に委ねられる。  だからこそ、美晴が取った選択をゆかりは心から嬉しく思い、祝福した。ああ、やっぱり私はこの子が大好きだ、と。  だから、これで十分だ。言葉なんて必要ない。 「全く、やっと終わったか」 「あぅっ?!」  ひどい茶番だったとでも言いたげな口調で朔夜は美晴を小突いた。しかしその目は優しげに和らいでおり、わしわしと頭をなでている。 「この大事な時期に意味分からん迷走しやがって。アホのくせに小賢しいマネするからだ」 「ひでえっ。私は私なりに考えて着ぐるみを借りて、小遣いはたいて機械まで買ったのに!」 「最高の無駄遣いに終わりましたけどねー、だからそんなことする必要ないって私は何度も止めたのに」  美晴の一連の問題に付き合い続けた小雪は、予想通りの結果に満足している様子だった。一番謂れのない被害を被ったためにスカッとしているらしい。
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