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そして、ここは既に普段から暮らしていた首都圏ではない。早朝からいくつもの交通機関を利用して、ようやくたどり着くほどの遠方の地。
出雲。
五年前まで暮らしていた町に、坂本ゆかりは再び戻って来ようとしていた。
しかし美晴のように平日に外国へ飛ぶほどではないにしても、突然の帰郷の準備は慌ただしいものだった。
向こうへの連絡や家族の許可などは悪い事情で引っ越した訳ではないので楽だったが、旅行を自分でセッティングした経験が皆無のゆかりは四苦八苦し、終始千早の世話になりっぱなしだった。
こんな体たらくで良く一人で行くつもりだったな、と情けなくなる。今も彼女がいなければ寝過ごしていたかもしれない。
「ありがと千早ちゃん。一緒に来てくれて大助かりだよ」
「そう言ってくれて私も安心してますよ。せっかくの帰郷なのに関係ない私が首を突っ込んでいいのか、少し不安でしたから」
やさしい子だなあ、とゆかりはちょっと泣きそうになる。
クラス内でも慄然たる存在感を放っていた彼女には、以前までは近寄りにくい印象を持っていた。
実際の彼女はいささか激情家ではあるものの、話しやすく気配りもできる少女らしい性格をしているとマジックゲームを通じて知り、互いの距離も縮まった。
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