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ぴしゃりと青年の言葉を返しながら、エルザはそれを小棚に戻す。
買う気が無い以上、持っている意味は無い。
それにもし誤って割ってしまったら………という不安も無い訳ではないので。
瓶を戻す手つきは自然と丁寧になっていた。
置き直し、手を引っ込めたその瞬間であった。
エルザの甲に、後ろから不意に延びて来た手が触れた。
触れた、というよりはただの衝突―――
「ぁっ……すみません」
「あぁ、いえっ」
お決まりと言えばお決まりの反応。
互いに軽い会釈をし、エルザはすぐに手を退けた。
前言撤回だ、どうやら買い手はいるらしい……。
再度謝辞をしつつ、『彼女』は小瓶をひとつ―――――いや、二つ、三つ、よっ…………。
…………え。
栄養剤(一部睡眠防止薬入り)の値段は先の通りである。
例え買い手がいたとしても、経済的にせいぜい一、二本程度が手一杯の筈である。
しかし、今目の前の女性の両手には、それこそ『手一杯』の数が掴まれている。
「ぁっ、ごめんなさい。 少しだけ置かせて頂けます?」
………い、いやいやいやいや、少しどころじゃないでしょ。
気付けば先まで小棚にあった瓶全てがレジ端にのせられていた。
エルザも店員の青年も、これには二人とも目を丸くするばかりだ。
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