二:隻眼と隈眼鏡

73/73
313人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
………それだけなんだけど………。 「あの、ぃ、いいんすか? お金かなり掛かりますけど。 カードは利きませんよ?」 「ぁ、現金なら……」 そう言って彼女は手提げから札束を取り出す。 ドルの価値は暴落はしたが、ここまで纏めて持つ人間を見たのはエルザは始めてである。 人前で平然と出している辺り、あまり金の持ち歩きには慣れていないのか……というより無用心過ぎる。 「流石に……これで足りますよね……?」 「じゅっ、十分過ぎるっすよ……! ………っと、そうでした。 すみませんねエルザさん、先に会計済ましますね」 「エルザ……?」 青年の出した名に、女性はようやくこちらに振り向いた。 前髪を右手で耳にかけ、今はっきりと対峙した。 「…………えるざ……?」 「リズ………じゃないよ、ね―――」 反射的な受け応えであった。 こんな問い掛け、怖くてしたくもない。 しかし、エルザがそう最後まで言い終える前に、彼女の両手がエルザの左手を持ち上げた。 …………ぇ。 彼女は何度も何度も自身の手を触り、続いて顔に触れる。 瞳を――――『どちらとも』見つめる。 エルザもそこで気づいた。 覗き見る彼女の額。 その生え際が金髪とは別の『銀灰色』になっている事に。 ―――ウソ。 その呟きは、二人同時であった。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!