313人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
………それだけなんだけど………。
「あの、ぃ、いいんすか? お金かなり掛かりますけど。 カードは利きませんよ?」
「ぁ、現金なら……」
そう言って彼女は手提げから札束を取り出す。
ドルの価値は暴落はしたが、ここまで纏めて持つ人間を見たのはエルザは始めてである。
人前で平然と出している辺り、あまり金の持ち歩きには慣れていないのか……というより無用心過ぎる。
「流石に……これで足りますよね……?」
「じゅっ、十分過ぎるっすよ……! ………っと、そうでした。 すみませんねエルザさん、先に会計済ましますね」
「エルザ……?」
青年の出した名に、女性はようやくこちらに振り向いた。
前髪を右手で耳にかけ、今はっきりと対峙した。
「…………えるざ……?」
「リズ………じゃないよ、ね―――」
反射的な受け応えであった。
こんな問い掛け、怖くてしたくもない。
しかし、エルザがそう最後まで言い終える前に、彼女の両手がエルザの左手を持ち上げた。
…………ぇ。
彼女は何度も何度も自身の手を触り、続いて顔に触れる。
瞳を――――『どちらとも』見つめる。
エルザもそこで気づいた。
覗き見る彼女の額。
その生え際が金髪とは別の『銀灰色』になっている事に。
―――ウソ。
その呟きは、二人同時であった。
最初のコメントを投稿しよう!