三:一時の……

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「はあ、こいつは………また……」 目の前の遺骸を一瞥して、ジャックは心底嫌気がさしたように吐息をした。 今月に入って既に五人目だ。 これで『姿無き死人』による犠牲者は二桁に入ってしまった。 自警団が町の警備体制を厳戒にしたというのに、その『死人』の足取りは一切掴めていなかった。 「どうだったんだい?」 人だかりを抜けて、短機関銃を肩に掛けたままのカレンがそう訊いて来た。 二人が自警団との共同捜査を引き受けたのは、ほんの些細な好奇心からであった。 エルザが仕事をしなくなって久しいが、その間の『つなぎ』として報酬が欲しかったのもそうだが、ジャックにしてみれば通りで起こっている無差別な殺戮を放っておく事が出来なかったのもある。 はっきりと正義感から………と言う事が出来ないのは、カルロスのような純粋な心でいられないからだろう。 被害者達に向けるような同情心は、ジャックには持ちえていない。 はっきりと仕事だと割り切っていた。 ――――しかし。 こうまで立て続けに惨殺死体を見ては、そうも言ってられなくなる。 カレンの問い掛けに、ジャックは疲労の色を隠さずに「相変わらずだ」と答えた。
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