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「行っちゃい………ましたね」
やっとエルザの姿が消えた所で、変な安堵を覚えたのは否めない。
「ったくよぉ」と大袈裟な溜め息をするアレックスとは正反対に、カレンは大まじめな顔であった。
「……あの様子だと、まだ危ないね」
「………」
自分に振られたのは分かっていたが、カルロスは黙って彼女の消えたそこを見続けた。
あの様子だと、もう暫くは返って来ないだろう。
少なくとも『薬を飲む程度の時間』迄は。
「カルロス……無躾だと思うが、最近の彼女を見て、君はどう思っているんだい?」
「……だ、だいぶ落ち着いたとは思う。 パニックになる事も少なくなったし……そっそれにほら、先もあんな元気がよかったじゃ……」
「本当にそう思っているかい? 君ともあろう者が」
「………っ」
カルロス、この際だ。 はっきり言おう。
机を指で一度軽く叩き、カレンはカルロスに向き直る。
「もう暫く彼女を仕事から離すべきだ」
「………待ってくれよカレン。 俺は……」
「君が一番分かっているだろう? 彼女はまだ復帰出来る精神状態じゃない! 最近は特にそれが顕著に表れている!」
「…………」
「本来なら彼女をここに呼ぶのすら危険なんだ。 先週も突発的にパニックを起こしたばかりだ」
「ぁ、あれは……っ!」
違う。
違うのだ。
あの時は運が悪かっただけなのだ。
『たまたま』誰かが喧嘩の最中に銃を持ち上げて、その銃口が彼女に向いただけの話だ。
彼が故意にエルザを狙っていた訳ではないのは重々承知だ。
ただ持ち上げかけて止めた先が、エルザの顔であって、おまけに席が近かっただけなのだ。
ここまで最低な条件が揃うのはそうそう無い。
カレンもそれは分かっている。
だが、それでも―――いや、『そうだからこそ』カルロスに言う口調はより強い物になっていた。
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