序章

2/2
313人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
あれから、どれ程の月日が経ったのでしょう。 あの日のような蒸し暑い季節は過ぎ、今は外で木枯らしが吹き始めています。 ……あの人は、生きているんでしょうか? 生きてたとして、元気にしているのでしょうか? 気付けば、私はそんな事を考えています。 毎日外を見ては、そう思うのです。 生きているかもわからない彼女を……。 あの頃が懐かしくないと言えば嘘になるし、出来る事なら、あのままでいたかったです。 けどそれはただの幻想に過ぎません。 私が求めても、手を伸ばす先には既に何も置いてはいないのです。 彼も、彼女も、皆も。 何もかもが私の手から落ち、二度と戻って来る事はない。 あの時、私もついでに死んでいればどれほどいいかと考える事もあります。 しかし現実は私を『いたぶる』ことはしても、決して死なしてくれはしないのです。 これは運命なのでしょうか。 これはさだめなのでしょうか。 私はこんな運命を欲しいと思った事はありません。 なら、これもその運命の内なのでしょうか? 私の身体についたこの血も、私が食べるこの肉も、その運命の内に入るのでしょうか? 渇きは癒えず、飢えは満たされず。 私は何が欲しいのでしょう?………ああ、また彼女に会いたい。 彼にも会いたい。 しかし会って何をしましょうか。 それが一番の問題です。 きっと私は口ごもってしまうのでしょう。 取り合えずは、この肉を食べ終えてから考える事にします。 食べればいい案も浮かぶでしょう。
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!