一:焼き付いた瞳

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※ 影の顔は真っ赤だった。 血走った眼、荒い息を漏らす開いた口。 こちらに向けかけた短機関銃。 狙いは自分。 自分の額。 思考の余裕などない。 ただ自分は、自分の命を守りたいが為に引き金を引いた。 空間に広がったのは、硝煙。 血、硝煙、肉、硝煙、腐臭、硝煙、朝霧、硝煙、血、硝煙、血、硝煙、血硝煙硝煙硝煙硝煙硝煙硝煙硝煙硝煙血液血液血液血液血液血液血液血液。 自分は撃ったのだ、あのゾンビを。 カルロスと自分を追っていたゾンビを。 ―――ゾンビが銃なんて持てた? ―――ゾンビがあんな生々しい覇気を出せるのだろうか? ―――ゾンビはあんなにも………生に縋り付くような、激情の表情、瞳の輝きをしていたっけ? ―――なんであんな、自分を見た瞬間、表情を変えたんだろう? 銃口を下げた? わからない、わからない。 覚えていない、覚えているわけがない。 気のせい? 気のせいなのか? 本当に気のせい? 「せ……ぃ……! んぱい…!」 自分はそれをもう一度見る。 頭ではなく、それ以外の、損傷していない所。 Tシャツ、ジーンズ、ブーツ、バックパック、ホルダー、無線。 ………おかしい、何故ハンターの格好をしているのだ、『これ』は。 ゾンビの感染は寄生虫、噛まれても発症まで最低でも一週間は掛かる筈だ。 しかし、実際そんな短期間で発症した人物を自分はみた事がないし、聞いた事もない。 なにより、ゾンビの事を一番知っているハンターだ。 噛まれれば、すぐにワクチンを投与する筈だ。 この一晩で発症など、絶対にありえないのだ。 …………だとしたら………この………いえ、『彼』は。 私は………もしかして私は。
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