一:焼き付いた瞳

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頭の中で同じ光景がぐるぐると出口を無くしたかのように繰り返される。 あぁそうだ、これは夢、これは夢なのだ。 夢の中では夢だと気付く事はあまりないというが、多分アレは嘘だ。 いや、嘘というよりも、自分の夢の見方が特異なのだろう。 エルザの見る夢は、頭の中の空想の産物で出来上がった類いの物では無い。 断片的な記憶、どうでもいい日常の場面、一番笑えた光景、彼と過ごすありふれた景色。 ―――そんな記憶の集まり。 それがただ繰り返される。 時たま映り変わり、そしてまた同じようにと。 まるで撮影の失敗して焼き付いたフィルムが、観客のいなくなった上映観でいつまでも空回りを続けるかのように。 ただ、この数ヶ月違うのは、その場面の映り変わりが消えたという事だろう。 思い出したくなくても、一度目をつむれば、広がって来るのはあの光景。 悪夢にしたのは誰でもない、自分自身。 50AEを撃ち放ち、あの見ず知らずの男の顔面を砕いたのは、私。 夢の光景が第三者からの視点で見れたらどれほどいいか………。 夢だと分かっているのに、あの時の心情、動揺、激情まで克明に繰り返してしまう。 どんなに頑張っても、映画の観客にはなれないのだ。いい所でロッキーホラーショー…………いや、視聴者参加型な時点で大して変わらないか。 そうこうしている内に、また始まった。 相変わらず自分は彼を捜す為に、あの炎と死臭漂う路地裏を走りつづけている。 自分は走る。 背後の二人を意識せず、必死に、願いながら、祈りながら。 途中でゾンビが襲い掛かって来る。 頬を肘で飛ばしたら顎が外れた。 もう一体が来た。 今度は撃ち抜いた。 自分と同じ、右目を。 噴き出た血が口に入る。 酸味なのか苦味なのか分かる前に唾と一緒に吐き出す。 銃声がもう目の前という所まで来た。 後ろから誰かの呼び声が聞こえる。 自分はそれより大きく、声を振り絞った。 彼の苗を、彼の名を。 路地を曲がろうとした瞬間、誰かとぶつかり尻餅をついた。 出合い頭による衝突。 相手がゾンビなら撃ち殺す。 崩れた体制を直す前に、まず照準を前に合わす。 邪魔だ、どけ。 その腐れ切った頭を南瓜のように砕いてやる。 だが、持ち上げた顔を見て驚愕する。 思いがけず感嘆を漏らす。 だが、それと同時に彼が通っていた路地先からもう一つの影が飛び出して来た。 そして自分は………自分は……
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