一:焼き付いた瞳

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※ 翌日の早朝、エルザの顔はそれはもうひどかった。 「うわっせんぱい………ど、どうしたんですかそれっ」 ジュディが最初に玄関を開けた時、思わずそう訊いて来た。 ろくすっぽ綺麗に洗わなかったせいで頬には血がこびりつき、顔もむくんでしまっている。 また寝起きのままだけに、髪が蔓のように広がってしまって、おまけに顔についた血が張り付いて………。 「ご……強盗ですかまさか!」 「おばか、そんなわけ無いでしょ。 ………ちょっと、傷口が開いただけ、寝てる間にね」 「寝てる間ってせんぱい……そんなまた………あぁっ! ちょっと酷いですってこれ!」 「ちょっと、朝から声を上げないでよ。近所迷惑でしょ」 寝室の様子を確認して、ジュディがますます口調を荒げる。 「どうしてすぐに洗わないんですかぁ! シミになりますってこれ!」 「あのねぇ、深夜過ぎにそんな気力起きるわけ無いでしょ。 止血するのに手一杯だったのよ、こっちは……」 「まさかお風呂場も…………あぁぁぁやっぱりぃ!」 「ていうかなに自然に人の部屋踏み込んでるのよアンタ」 「そんな事言ってる場合じゃないですってこれ……!」 「いいから……ったくもう」 朝にこのテンションはキツい。 エルザは文句混じりにそう呟いて、「取り合えず用意するから外で待ってなさい」と無理矢理彼女を部屋から追い出す。 「ま、待って下さいよ! 私も手伝いますからっ、せんぱいは早く顔を冷やして下さい! むくみ取れませんよ!?」 「今朝から顔洗ってるって」 「そこまで酷いと氷使わないと駄ぁ目ですってぇ! 不細工なままですよ!」 「おいコラ今なんつった」 結局身体の血と寝癖はシャワーを浴びることでことなきを得たが、顔のむくみは最後まで落とす事は出来ず、ジュディの言う『不細工顔』のまま服に袖を通す結果となってしまった。 酒場へ向かう為に通りを歩き続けるなか、ジュディが氷嚢を宛てがってくれるも、「それくらい自分でも出来るから」と早々に奪い取り、彼女を涙目にしてしまった。
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