一:焼き付いた瞳

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「だれだお前ぇ!!」 「開口一番にその言い草は無いんじゃないの!」 アレックスは挨拶がわりの茶化しを入れようと思っていたらしいが、エルザを見るなり用意していた言葉も吹っ飛んだようだ。 「また酷く腫れちゃったみたいだね……エルザ」 そう言いつつも遠慮なく近寄って来るのはカレンで、側にいるジャックは反対に目を真ん丸に見開いてこちらを凝視していた。 「また夢見が悪かったのかい?」 「うん、まあちょっと……ね」 「ちょっと……か。 うん、そういう事にしておこう」 「取り合えず念のため確認しておくが、お前ぇ、間違いなくエルザだよな?」 「確認までする必要あるのかコラ!」 だって…………なあ。 アレックスは自然とジャックと視線を合わせると、彼も黙って頷く。 そんなぁっ、と机に突っ伏すエルザの頭の上に誰かが手を置いた。 「カルロスぅ……」 「うっ……いや俺にそんな目で見られても」 「カルロスぅぅ!」 「うわっ、ばかよせ! あいだだだだだだだだっ!腕引っ張んなって!」 朝っぱらから見せてくれるねぇ、と何処かの誰かが通り際に言って来て二人の動きが止まる。 押し殺すように笑いを上げるのはなにもカレンだけという訳でない。 「なによアンタら……いいでしょ別に」 「いや私は茶化すつもりは無いよ。 ただ君達の姿もだいぶ板について来たみたいだなと思ってね」 「どういう意味よそれ」 「バカップルに決まってんだろ」 容赦無いアレックスの口激で、目の前でカルロスの顔が紅潮するのが見えた。 こういう自身に向けられた茶化しに弱い所が彼の駄目な所だ。 「いいわよ、恋は盲目にならなきゃやれないのよ。 人目を気にしてたら終わりよ」 「幸せ一杯ってか、お熱いねぇ」 「あんた、人の事言えた義理?」 「あ?」 その不意打ちにアレックスの片眉が釣り上がった。
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