四:不穏の目覚め

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四:不穏の目覚め

私は、最低な人間です。 大事な人に。 彼女に。 手を、挙げてしまいました。 彼女の愛情表現を、私は無下に叩き払ってしまいました。 彼女の事は大好きです。 崇拝すらしています。 けど、そんな彼女でも、私は耐えられなかった。 触れられる事を。 彼女の温もりは、私にとっての安らぎです。 しかし、皮膚に伝わるその感触は、いつか経験した、あの忌まわしい記憶と重なってしまうのです。 大丈夫。 もう大丈夫。 そう自身の中で、幾度となく繰り返して来ました。 反芻しました。 そう信じました。 騙しました。 けど、心は封じ込めても、体は覚えています。 彼らの手を。 彼らの熱を。 彼らの感触を。 腹を壊され、それでも尚凌辱されたあの時を、思い出してしまいます。 気づいたときはもう遅かったのです。 彼女の優しい両指を私は拒否しました。 償わなければなりません。 ――――言葉で謝罪を唱えても、そんな物に意味はありません。 言葉ほど曖昧で、不明確で、信頼性の無い物はありません。 行動で示さなければなりません。 しかし。 さて、どうしましょう。 払ったこの指を全て切り落とせばいいのでしょうか。 それとも、腕ごと…………? 困りました。 そうなると切り落とす道具がありません。 歯で食い千切るのも苦労するでしょう。 別の謝罪方法を考えなければなりませんね。 その為には、もっと食べないといけません。 そうです、食べないと行けません。 彼女の為に。 彼女の『分』の為に。 ………いえ、やはり駄目です。 こんな汚い物ではいけません。 彼女の口に入るのです、それなりに良い物でなければ………。 探さないといけませんね。 綺麗な身体を。 彼女が『泣いて』喜ぶような、そんな肉を………………
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