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その後、話し合いの結果、私はフェンリル支部(フェンリルの正体)でお世話になることとなった。記憶もなく、旅をしていたため帰る場所も無い。しかし、この時世だ。放り出すわけにもいかず、しばらくの間保護を受けることとなったのである。
で、さっき血液と細胞を採取された。検査に使うとのことだったのだが、どんな検査なのだろうか。
「失礼します。起きてる?」
「あ、はい。」
カーテン向こうから女の人の声が聞こえた。誰だろう。
「入っていい?」
「はい、どうぞ。」
カーテンを開けてはいってきたのは、スタイルの良い、黒い髪の綺麗な女性だった。
「え、あ、あの・・・///」
とても目のやり場に困ります。私も女性だけれど、旅してきた中でこんなに綺麗な人は見たことがないし、記憶喪失なので当然過去の記憶にもない。
「突然来てごめんなさい。私は橘サクヤ。よろしくね。」
「あ、よろしくお願いします。私は・・・」
「リオンちゃんでしょ?リンドウから話は聞いてるわ。記憶がないんですって?」
「あ、はい。」
何故かわからないが、なんとなく謝ってしまった。特に悪いことをしているわけではないはずなのに。しかし、記憶がないことがもう知れ渡っているのか。リンドウさんとやらが言いふらしているのだろうか。
「辛くないの?」
「・・・辛い、ですか?」
考えたこともなかった。記憶がないことが辛いだなんて。もっとも、辛いという感情すらも忘れていたように思える。私が記憶をなくしてからもう三年。一度も辛いと思ったことはなかった。
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