始まりのキオク

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 「ここはどこだろう?」  そんな考えが何度頭を過ぎったか。私はただ、当てもなく荒野を歩いていた。灰色の空、黒くよどんだ地面。目に映る世界は、ただ廃墟と瓦礫に覆われた世界。ここに行き着くまで、同じような景色を何度も見てきた。形は様々だったが、大体同じような景色。しかし不思議と、その光景に飽きたりはしなかったように思える。それどころか、目に見える景色が全て、私には新鮮なものに見えた。  私は私を知らない。何も覚えていない。自分が生まれた場所、家族や友人の顔と名前。どんな人生を過ごしてきて、どんな出会いと別れを繰り返してきたのか。何も、何も覚えていない。  ただ一つ、リオンという名前だけはわかっていた。いや、本当は自分の名前も覚えていなかった。夢で出会った女性が、何も覚えていない私に、名前をくれた。【彼女】が私にくれた名前は『響音リオン』。意味はよくわからなかったが、【彼女】は、この名前を大事にしなさいと言って、いなくなってしまった。  三年前、私は荒れ果てた世界の真ん中にいた。その時すでに、自分のことは何も知らない状態だった。なぜそこにいるのかもわからなかった。それからは、どこへ行くわけでもなく、ただいろんな場所を転々と巡っていた。町だったり、村だったり。小さなスラムを歩いたこともあった。誰か、自分を知っている人を探していたのかもしれない。けれど、誰も私を知っている人などいなかった。  【彼女】と最初に出会ったのは、私があてもない旅を始めて、半年くらいした頃のことだった。【彼女】は、名のない私に、『響音リオン』という名前をくれた。そして、何度か私と会っては、私に必要最低限の知識をくれた。  この世界には、化物がたくさん生息しているらしい。そういえば、過去に立ち寄った町のような場所で、それらの化物を『アラガミ』と呼んでいたのを聞いた気がする。私は見たことがないから、それがどんな生き物なのかはわからないのだけれど。
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