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その日は眠れなかった。
毛布一枚に全身を包んで、芋虫みたいな状態で僕はまた窓から空を見た。
夜の空は真っ黒、その中で星がちりばめられて、何処かの誰かはあの星を道標にでもしているかもしれない。
――あの子も、見ているのかな
無意識にそう思ってしまう。
気を許せば頭の中は直ぐあの子で埋め尽くされる。そして顔が真っ赤になって鼓動が速まるのを嫌でも感じるのだ。
「なんなんだよ…っ」
恥ずかしくなって毛布の中に顔を埋めた。それでも心臓は倍の速さで脈を打つ。
あの子の顔が、髪が、瞳が、仕種が。
忘れられずに脳裏にくっきりと焼き付いている。
思い出せば思い出す程に、心臓は活発になる。
でも不思議と嫌ではない。むしろこの感情が嬉しいのかもしれない。
でも、何て言うんだろう
明日兄さんに聞こう、と期待を込めながら僕は無理矢理目を閉じた。
「どうしたの?浮かない顔してるね」
朝、囚人達は監獄から出て一斉に整列した後、食堂へ向かう。
大勢の怖そうな看守が監視する中、僕は慣れない事に内心驚いていた。
他の囚人は、皆極悪非道という言葉が極めてお似合いだ。そういえば中には僕と同じくらいの囚人もいる。老若男女は問わないわけか。
兄さんに会えたのは奇跡と取っていいだろうな。
そしてその兄さんが今、二列で整列する僕の横に陣取り、場所など関係無いのか優しい笑顔のままだ。
「そうかな…?」
「レン君若いのに本当色々大変だねー。監獄(ここ)とかその浮かない顔の原因とか」
兄さんの勘の鋭さは凄いと思う。ばれた事が恥ずかしくて顔を逸らした。
だが看守の目を盗み、小声で話す間も僕が考えるのはやはりあの子。
あぁ、ダメ。もたない。
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