名無しの魔女

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 ここで彼女とはお別れ。彼女は振り向いてこちらをじっと見ている。やっぱり綺麗な瞳だ。 「短い間だったけど、本当にありがとう。助かった」 「そう」 「これでさよならだな」 「そうね」  彼女は変わらず淡々としていて。そんなやり取りが嬉しくて、つい笑みが零れた。 「なあ」 「何かしら」 「あんた、名前は?」 「――名前はないわ」 「そうか」 「…………」  ふと、彼女が俯いて急にだんまりになった。どうしたんだろう、と思っていると、彼女は顔を上げて小さく呟いた。 「――ら」 「悪い、聞こえなかった」 「――だから、貴方がつけて」  驚いた。彼女からの、初めての頼み。  突然のことだったので戸惑ったものの、答えは直ぐに出た。 「――スノウとか、どうかな」  雪の日に逢った、白銀の魔女。頭の中にすっと浮かんできた名前。彼女はそれを聞いて少し固まっていたが、やがて俺の顔を見つめ、 「いい名前ね、レオン」  瞬間、突風が吹き、思わず目をつむってしまう。俺が再び目を開けた頃には、彼女の姿はもう何処にも無かった。  ――俺の中に残ったのは、そう言った時の、最初で最後の、彼女の、スノウの微笑みだけだった。  
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