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「…………ぅ」
重い瞼をゆっくりと開ける。知らない場所だとすぐにわかった。木の香りが辺りに広がっている。ベッドは柔らかく、身体にかけられてある毛布は少し甘い匂いがした。窓から差し込む日の光が染みる。
「起きたのね」
すぐ近くで声がした。無機質のように感じられるけど、澄んだ女性の声。した方に顔を向ける。
「…………」
――声を発せなかった。ただただ、綺麗な人だった。
無造作に垂らされ、光で淡く輝いた銀色の髪。座っているためか、床に散りばめられている。
俺を見つめる碧の双眸は吸い込まれそうなほど美しく、長い睫毛が印象的で、人形のようだった。
彼女は無表情にこちらを見つめている。冬の季節には不釣り合いな漆黒のドレスを身に纏っているのと相俟って、ますます人形のように感じられる。
暫くそのまま彼女に吸い込まれていたが、俺はようやく口を開いた。
「あんた……は」
「六日」
「……?」
「貴方が寝てた日数」
「そんなに寝てた……のか」
「そうね」
彼女が出した手をそっと握り、ゆっくりと身体を起こす。全身に鈍い痛みが走った。
「取り替えた方がいいかしら」
言われて、俺の上半身に包帯が巻かれているのに気付いた。彼女がしてくれたみたいだ。そんな彼女は握っていた自分の手を見つめている。
「俺は……」
「肋骨三本。腹から腰椎(ようつい)を掠めて風穴。大量出血。おまけに凍傷。よく生きてたわね」
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