23人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の負った傷を淡々と読み上げるように語る彼女。ゾッとした。あの時は無我夢中で、気がつけばここにいた。そうか、俺は――
「魔物にやられたのね」
「……ああ」
力無く頷く。六日前、俺は人狼(ワーウルフ)と呼ばれる魔物にやられた。仲間を逃がすためとはいえ、派手にやられたもんだ。
あいつは、ルーナはちゃんと逃げきれただろうか。逃げ切れたなら、今頃学園の先生達が俺の事を探してるだろうか。
「心此処に非ずね」
見透かされたような台詞。彼女は椅子に座ったまま、無表情を崩さず静かに足を組んだ。
「状況は把握できてるかしら」
「……いや」
「そう」
彼女の顔からは何の感情も感じ取れない。ただ静かに、窓の側にあるカップに手を伸ばし、飲み物を淹れている。この香りは紅茶だろうか。
特に何も言って来ないので、質問をすることにした。
「ここは?」
「貴方が倒れていた所からずっと奥。森の中の私の家。血だらけで倒れてた貴方を連れてきて治療した。貴方の他にあった足跡は外に続いていた。逃げ切れたでしょうね」
訊こうと思った内容を一度に全て言われ、思わず固まってしまった。本当に見透かされてるようで少し気味が悪い。けれど状況は把握できた。とりあえず、俺は静かに彼女に頭を下げる。
「……ありがとう。お陰で助かった」
「そう」
特に気にした風でもなく、彼女はただ二文字で済ませた。どこまで淡泊なのだろう。
「他に質問はあるかしら」
かちゃり、とカップと皿が当たる音が響く。紅茶を見つめる彼女に、また吸い込まれそうになった。
最初のコメントを投稿しよう!