名無しの魔女

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 俺の負った傷を淡々と読み上げるように語る彼女。ゾッとした。あの時は無我夢中で、気がつけばここにいた。そうか、俺は―― 「魔物にやられたのね」 「……ああ」  力無く頷く。六日前、俺は人狼(ワーウルフ)と呼ばれる魔物にやられた。仲間を逃がすためとはいえ、派手にやられたもんだ。  あいつは、ルーナはちゃんと逃げきれただろうか。逃げ切れたなら、今頃学園の先生達が俺の事を探してるだろうか。 「心此処に非ずね」  見透かされたような台詞。彼女は椅子に座ったまま、無表情を崩さず静かに足を組んだ。 「状況は把握できてるかしら」 「……いや」 「そう」  彼女の顔からは何の感情も感じ取れない。ただ静かに、窓の側にあるカップに手を伸ばし、飲み物を淹れている。この香りは紅茶だろうか。  特に何も言って来ないので、質問をすることにした。 「ここは?」 「貴方が倒れていた所からずっと奥。森の中の私の家。血だらけで倒れてた貴方を連れてきて治療した。貴方の他にあった足跡は外に続いていた。逃げ切れたでしょうね」  訊こうと思った内容を一度に全て言われ、思わず固まってしまった。本当に見透かされてるようで少し気味が悪い。けれど状況は把握できた。とりあえず、俺は静かに彼女に頭を下げる。 「……ありがとう。お陰で助かった」 「そう」  特に気にした風でもなく、彼女はただ二文字で済ませた。どこまで淡泊なのだろう。 「他に質問はあるかしら」  かちゃり、とカップと皿が当たる音が響く。紅茶を見つめる彼女に、また吸い込まれそうになった。
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